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     日 時 : 平成14年7月16日(火)午後1時
     場 所 : 参議院第43委員会室(分館4階)
     案 件 : 健康保険法等の一部を改正する法律案について

 なお、以下は櫻井秀也常任理事の意見陳述要旨です。


健康保険法等一部改正案に対する意見

日本医師会常任理事 櫻井秀也

 最初に結論を申し上げれば、現在提出されている健康保険法等の一部改正案には断固として反対します。

 反対の理由を述べる前に、日本の医療保険制度に関しての、基本的な考えを2点述べさせていただきます。

 まず第1点は、今までの日本の医療保険制度は、対GDP比7.1%程度という、国際的に見て、きわめて安い費用で、世界一の高寿命や世界一低い乳幼児死亡率等の素晴らしい成果を上げており、世界に冠たる優れた医療保険制度であることを忘れてはなりません。従って、医療保険制度の改革は、今までの長所を延ばし、尚一層発展させる方向で進めるべきであると考えます。折角の優れた制度を破壊するような改悪案には、強い憤りを感じるものであります。

 次に、第2点は、日本の医療保険制度は、皆様がよくご存じの通り、保険料と公費と患者負担の3つの財源によって運営されています。医療保険制度は、文字どおり保険制度ですから、その財源が不足した場合には、第一義的に、保険料のアップによって対処すべきであります。また、日本の医療保険制度が、社会保障の役割を果たしていることから考えれば、次に考えるべきは、公費負担のアップを考えるべきであります。国民全員が保険料を払い、健康を害した時には、安心して医療の提供を受けられる国民皆保険制度であるためには、その財源不足を患者負担によって補おうとする考えは、まったく本末転倒の考え方であると思います。患者負担を受益者負担という人がありますが、元気な時に保険料を払い、健康を害した時に医療保険による給付を受ける患者さんは、決して受益者ではなくて、むしろ受難者であります。受難者に負担を強いる制度には強く反対します。

 以上の基本的考えから、今回の健康保険法等の改正案に、以下の2点において、断固として反対です。

 まず、第1点は、老人保健法の一部改正による、高齢者の入院外自己負担定率および高額医療費化(還付方式化)と上限額の引き上げに反対します。

 入院外、特に在宅医療における高齢者の負担は、きわめて重い負担になり、高齢者が安心して医療の提供を受けられなくなる可能性があります。また、還付申請方式は、高齢者にとってきわめて煩雑で、申請のし忘れなど、確実かつ適正な運用は期待できません。

 日本の高齢者の一部は、ある程度金銭的余裕があるという意見もあります。しかし、たとえ余裕があるにしても、健康を害した時に重い負担をかける制度を導入すれば、余裕のある高齢者も、その時に備えるために、平生の経済活動を抑えてしまいます。健康を害した時には、安心して医療を受けられる制度にすれば、余裕のある高齢者の経済活動は活発になり、日本の経済の建て直しにもプラスに働きます。いたずらに、健康を害した時には重い負担をかけるぞ、というやり方は、日本の経済の低迷にさらに拍車をかけるものと考えます。

 次に、第2点として、健康保険法の一部改正による、被用者保険本人の3割負担の導入に反対します。

 保険料負担の軽度の増加によって、被用者保険本人の患者負担3割導入は回避が可能です。「はじめに3割負担ありき」の法案には、強く反対します。

 被用者保険本人の患者負担3割が、被用者保険家族や国民保険の加入者の患者負担との比較で、公平であるという意見をいう人がいます。しかし、その考えは、まったく間違っています。日本の医療保険制度における負担の公平は、保険料の負担と患者負担の両者を合算して考えるべきものであります。被用者保険家族は、実質的に保険料の負担をしていません。従って、被用者保険本人より高率の3割の患者負担をすることが公平であり、今までそのような制度として運用されてきたのです。また、国民保険は、保険料負担分が少なく、国民保険の財源にはほぼ50%の公費が注入されています。従って、保険料負担の少ない分を、3割の患者負担として補うことが公平であるという考えで運用されてきたのです。被用者保険本人の患者負担3割導入は、このような日本の医療保険制度の負担の公平の考え方を根底からくつがえすものであります。

 「はじめに3割負担ありき」ではなく、保険料負担も含めて、根本的な負担のあり方を考えなくてはならないと思います。

 以上、一番最初に、結論として申し上げた通り、今回の健康保険法等の一部改正案には断固として反対します。

 最後に、もう一つだけ意見を述べさせていただきたいことがあります。

 現在日本の経済状態は低迷し、それ故に今回のような患者負担の増加によって医療費財源を確保しようとする法案が出されているものと思います。

 しかし、現在の日本経済の苦境は、経済界自体の失態によるものであって、その原因は医療分野によるものではありません。にもかかわらず、その解決策を、医療分野特に患者負担に求める考え方は、まったく納得がいきません。むしろ、国民に安心と安全を保証する社会保障制度の充実こそが、日本経済の立て直しのために必要であると考えます。

 良識ある参議院議員の皆様方の賢明なる判断を強く期待します。 以上

日本医師会ホームページ
http://www.med.or.jp/nichikara/sanin0716.html



●日医「健保法等改正案」で緊急記者会見高齢者の1割負担・被用者保険の3割負担等に断固反対!

 日医は,六月二十一日,都内のホテルで緊急記者会見を開き,現在,国会で審議されている「健康保険法等改正案」について,改めてその対応を表明した.
 会見には,石川高明・青柳俊両副会長が臨み,まず,石川副会長が,「当面する重要課題」について説明を行った.(下掲) 
診療報酬改定については,「症例数基準に基づく手術料の三〇%減額,再診
料・理学療法・作業療法における減額と回数上限制は,科学的根拠がない.地域の医師会からも,医師の裁量権や技術評価を歪め,特に,地域医療を切り捨てるものだという抗議が日医にきている.また,百八十日超の入院患者に対する特定療養費の適用は,六カ月を超えても入院していなければならない患者さんが現実に多数いるわけであり,入院を必要としているそれら患者さんの切り捨てにつながってしまう」と述べ,さらに,改定に際して,予測した影響度と実績値が乖離した場合,再改定を含む早急なる対応を望むと話した.
 当日開かれた国会議員との会合(「二十一世紀の社会保障制度を考える議員連盟」)においても,橋本龍太郎会長が,「今回の診療報酬改定で,理由のつかないもの,予測と実績の乖離が著しいものは積極的に対応したい」と言及したことを明らかにするとともに,健康保険法等の一部改正法案については,「高齢者の自己負担定率および自己負担限度額の引き上げは,反対.特に,窓口で超過分を徴収する制度は複雑すぎて承認できない.はっきりと上限を決めるべきである.また,被用者保険三割負担の導入についても,保険料総報酬制の導入で財源はまかなえるので,来年四月一日からの三割負担導入は反対である」と明言した.

2002年6月 日本医師会


当面する重要課題について

1.診療報酬改定について


症例数基準に基づく手術料の30%減額○何ら科学的根拠もない基準により,医師の裁量権や技術評価を歪め,地域医療を崩壊させる不合理項目の廃止. 再診料,理学療法,作業療法における減額と回数上限制○医療機関側に責任のない診療行為に対する減点制度の廃止. 180日超の入院患者に対する特定療養費の適用○入院を必要としている患者への,一方的負担増の回避. 改定に際して予測した影響度と実績値が乖離した場合,再改定を含む早急なる対応

2.健康保険法等の一部改正法案について

高齢者の自己負担定率および自己負担限度額の引き上げ○高齢者自己負担限度額の大幅な引き上げ(外来の場合:一般の高齢者12,000円/月,低所得者8,000円/月)および上限額超過分の窓口徴収方式(還付)の廃止. 被用者保険3割負担の導入○保険料総報酬制の導入によって,被用者保険の自己負担3割導入は回避可能.


日本医師会の櫻井秀也常任理事
7月16日の参院厚生労働委員会に参考人として出席し、健保法等改正案に「断固反対」