■柔道整復師:保険外請求の疑い 厚労省が療養費調査へ(毎日新聞)
整骨院や接骨院の柔道整復師が、保険適用の対象になるねん挫、打撲の手当てをしたとして料金を保険請求した患者数は、同じけがで実際に手当てを受けた人数を大幅に上回ることが分かった。昨年10月には約95万人分の請求があったと推計されるが、厚生労働省の調査では通院者は11万人に満たない。全体の保険支払額は年間2700億円を超えており、厚労省は「腰痛など保険外の請求がかなり含まれている疑いが強い」とみて初の実態調査に乗り出す。【鯨岡秀紀、関野正】
保険が適用されるのは、骨折、脱臼、ねん挫、打撲で、骨折と脱臼の手当てには医師の同意が必要。腰痛や肩こりは保険が適用されない。柔道整復師は病院の診療報酬にあたる療養費の支給申請書を保険者に提出し、支払いを請求する。
厚労省は昨年10月、柔道整復師が国民健康保険、政府管掌健康保険、老人保健に出した申請書約96万4000枚のうち約5万枚を調べた。その結果、ねん挫が全体の77・5%、打撲が21.5%で計99%を占め、推計で約95万4000人分に上った。調査しなかった組合健康保険などを加えれば、ねん挫と打撲の保険請求はさらに増える。
ところが、厚労省が昨年、約25万世帯75万人を対象に行った国民生活基礎調査による推計では、ねん挫と打撲を含む「骨折以外のけが・やけど」で一般病院以外の整骨院、接骨院、はり、きゅうなどへの通院者は約10万8000人。一方、腰痛や肩こりが原因の通院は約139万人に上るなど、保険適用外の患者が多数通っている。
厚労省医療課は「実態より保険請求が圧倒的に多いのは問題で、保険者に協力を頼んで調査する」と説明している。
柔道整復師は国家資格で現在約3万人。保険支払額の推計は、90年度の1669億円から00年度には2748億円と1.65倍に増えた。過去の国民生活基礎調査によると、柔道整復師にかかるけが人の数はほぼ横ばいだが、同じ期間の国民医療費の伸び(1.47倍)を上回った。
柔道整復師の保険請求をめぐっては会計検査院が93年、「十分な審査がないまま支払われている」と、旧厚生省に是正を求めていた。
日本柔道整復師会は「保険の対象とならない患者が大半かどうかわからないが、厚労省の調査結果を見て対応を考えたい」と話している。
【ことば】療養費制度 整骨院、接骨院など保険医療機関以外で払った料金は、患者が医療保険の保険者に申請し、認められれば自己負担分(国民健康保険は3割)を除いて払い戻される。柔道整復師は患者の代理で申請でき、患者は窓口で自己負担分を払えば済む。
■柔道整復師:「1人に3カ所以上手当」 多重請求4割も
整骨院や接骨院による保険外請求に絡み、柔道整復師が医療保険に出した支給申請書のうち、患者1人が3カ所以上の手当てを受けたとする請求が4割もあることが、厚生労働省の調べで分かった。こうした多重請求は会計検査院が9年前に「実際より多い個所数の申請を防止できていない」と不自然さを指摘したが、改善されていなかった。同省は水増し請求の疑いを強めている。
柔道整復師は骨折、脱臼、ねん挫、打撲で手当てをした場合、医師の診療報酬にあたる療養費を保険請求できる。
厚労省は昨年10月、国民健康保険など3保険に出された支給申請書約96万枚のうち約5万枚を調べた。その結果、体の3カ所の手当てをしていたのが30.8%、4カ所は8.7%あり、合わせて全体の39.5%を占めた。
3カ所以上の請求は年々増えており、98年度に28.4%だったのが、01年度には39.5%になった。特に、4カ所の請求は98年度は4%だったのが、01年度は倍以上の8.7%に増えた。
会計検査院の指摘は93年の決算検査報告。90〜92年度の請求分について、94カ所の整骨院と接骨院を調べた。このうち22カ所は患者の半数以上が3カ所以上のけがとなっていた。中には患者の97.4%が3カ所以上の請求となっている施設もあった。検査院は「通常は1、2カ所のはず」として、療養費の審査体制の強化など改善策を旧厚生省に求めた。
療養費は96年5月までは何カ所でも保険請求ができたが、指摘の結果、同6月から5カ所までしか認められなくなり、00年からは4カ所に減らされた。
柔道整復師からの申請書をチェックしている都道府県の審査委員会の委員には「両肩と両ひざをねん挫などという医学上考えられない請求もある」「医師の診療報酬だったら認められない」などという疑問の声もある。
厚労省医療課は「対策を取ってきたが、効果は上がっていない。何カ所の手当てをしても料金を同じにすることを検討する必要がある」と話している。
日本柔道整復師会の話 我々も請求実態を調査する。なぜ増えているのか、増えていることが問題なのかを検討したい。
[毎日新聞12月1日]