改定のポイントを厚労省に聞く
厚生労働省保険局医療課企画官 矢島鉄也
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●初めてのマイナス改定作業
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ー初めてのマイナス改定となりましたが、その点で何かご苦労はありましたか。
矢島:診療報酬制度ができて以来初めてのマイナス改定,経験したことがない改定で,作業としても大変でした。まず下げることが先に決まりましたが,一件単純に下げた場合,下げることが適切でないところも下がってしまいます。小児科の入院料のように評価をしなければいけないところもあります。その兼ね合いで,どこを下げてどこを上げなければいけないかが考慮されました。財源があって全部上げられれば診療側にとっては問題ないのですが,今回それができなかった点が大変でした。
−医療機関では予想以上の引下げと受け止め,再改定要求もでているようですが。
矢島:個別の医療機関ではさまざまな幅が存在すると思います。全体としては,実際の集計をみなければ議論も判断もできないのではないでしょうか。
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●医療濃淡に見合うメリハリ
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−どのような背景から再診料に逓減制を導入されたのですか。
矢島:同じ受診でも回数によって濃淡があります。評価にメリハリをつけました。1回目はむしろ高く評価し,2回目,3回目は据え置きで,4回目は下げ,医療内容に沿って濃淡が付けられたということです。月単位で4回目が下がって、翌月1回目はまた上がりますが、医療内容に合わせたということからすると理論整合性はありますか。
矢島:月ごとの請求という実務に沿って濃淡によるメリハリがつけられたということではないでしょうか。
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●社会的入院の解消を目指したもの
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ー180日超の入院患者に対して特定療養費が導入されましたが。
矢島:中医協では以前からいわゆる社会的入院の解消が取り上げられていました。そういう状況のなかで介護保険制度がスタートして受け皿が徐々に整いつつあることから,今回の改定で導入されることになりました。医療保険制度では医療の必要なものについてみていくことが原則です。入院はしているけれど入院医療の必要性が低い患者さんについて健康保険でどのように対応すべきかをご議論いただきました。
−まだ受け皿が十分でないという議論もありますが。
矢島:そのような意味で経過措置が念入りに設けられてあるわけです。平成14年4月より前から入院されている患者さんについて経過措置を設けたうえ,特定療養費の給付率も3段階設けられております。経過期間のなかで十分対応していただきたいと思います。
−選択の余地がある患者さんばかりとはかぎりませんが。
矢島:入院医療が必要な方は対象としておりません。また,入院医療の必要性は低いが介護ニーズの高い方には介護保険制度で対応できる仕組みがつくられているわけです。本来医療機関は医療を行うところですから,医療についてきちんと責任をもってやっていただくことが大事であるということだと思います。
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●診療報酬算定に第三者評価が要件となる
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ー緩和ケアの施設基準に、病院機能評価を受けていることが要件として新しく設けられました。
矢島:これは第三者評価を受けていることが医療機関にとってこれから重要なことになってくるという観点で導入されたものです。
ー緩和ケアが対象とされた理由はなんでしょうか。
矢島:今回の改定で悪性腫瘍に対する医療については,質の高いものが高く評価されるべきという考え方がありました。緩和ケアはある意味では医療機関の総合的な評価が必要とされます。そこで第三者による客観的評価を受けていることが条件とされたという経緯になります。
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●生活習慣病に対する生活指導全般を評価
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ー運動療法指導管理から生活習慣病指導管理へは、名称変更と考えてよいのですか
矢島:単なる名称変更ではありません。指導内容が今までの運動だけから,食事指導なども含めた生活指尊全般になったわけですから。
ー生活指導面をこれから評価していこうというメッセージと理解してよいですか。
矢島:そうですね。患者さんを全身的に管理すること,なんでもかんでも薬を使うというやり方よりはこういった指導を重点的にやるほうが評価されるということです。
ー慢性疼痛疾患管理というのはやはり再診料との関係から設けられた点数ですか。
矢島:再診料に逓減制が導入されたこととの兼ね合いもあります。ただし,整形外科の慢性的な疼痛は,定型的な管理の仕方があるといわれています。ですから,そういったものが包括評価されたわけです。
ー老人の外総診が廃止されました。在総診と並び大きな政策的項目ではなかったのですか。
矢島:われわれが想定していたのとは違ったかたちで,現場が大きく混乱したと聞いております。外来共同指導料などを設けていろいろ整理しましたけれども,結果的として全国的な現場の混乱がなくなりませんでした。
ーかかりつけ医機能が必要だという基本的考えは変わらないわけですか。
矢島:機能分担という観点からこれまでの経緯を蹄まえたうえで,今後とも検討されていくものと考えます。
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●投薬関係では大きな方向転換
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ー処方せん料が引き下げられましたが,院外処方推進の方向はどうなるでしょうか。
矢島:処方せん料については,院外処方を普及することに対するインセンティプの役割がかなり果たされたと捉えられています。
ー引下げによる逆戻りは懸念されませんか。
矢島:医療機関としても薬を外に出して身軽になることのメリットをご理解いただけたと思います。
ー後発品の処方について,点数の差が設けられましたが。
矢島:今回の改定で,後発品も使える環境が整備されたことに意味があります。今まではインセンチイブが働かなかったわけですから。医師が先発でも後発でも同じ効果だと思えば後発品でもいいわけです。先発が必要と判断したらその処方でいいわけです。
ー後発品の処方については一般名を書いても後発品名を書いてもよいわけですか。
矢島:一般名でも後発品のないものでは意味がないのではないかといわれています。後発も先発もあるもので一般名を医師が書いた場合,後発品を処方できることになります。その場合,後発品を含む場合の処方せん料が算定できます。
ー投与期間の制限が原則廃止と180度方向転換されましたが。
矢島:ポジティブリストで一つずつこれは長期投与できるとするより,医師の判断で必要な薬を使えるようにしておいたほうが患者さんにとってもいいわけです。そこでネガティブリストにされました。逆にいえば医療機関としては,長期投与する場合などきちんと理由を患者さんに説明することが求められているといえます。
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●手術を行うのに技術水準が問われる
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ー110の手術に症例数にしばりをかける施設基準が設けられました。
矢島:質を担保するためにはある程度症例数が必要となるということについては,すでに広く認識されていると考えています。
ー対象手術を選んだその基準はなんですか。
矢島:ある程度全国的にみて症例数もあって,技術も高いものが要求されるものが対象とされています。あまりにも珍しい手術は症例数ももともと少ないですし,どこでもやっている手術も対象にはされていません。
ー手術を実施することができる施設を制限する方向でしょうか。
矢島:というよりここにあげられた手術を行う以上,それなりの技術集積が求められているということだと思います。
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●主傷病と副傷病
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ー明細書の記載要領通知で傷病名記載にあたって主傷病と副傷病を分けて書くことが決められました。
矢島:議論の段階で支払側からも出ていましたが,205円ルールの見直しで,審査段階で問題が生じないよう考慮すべきという話がありました。それを踏まえた改定ということになります。なんでもかんでも病名をたくさん付ければいいというのではなく,本来の病名を明確にしていくことによって,類推できる病名は書かなくてもいいとされました。
ー主病の判断がむずかしいのではないですか。
矢島:そのようなことはないと聞いております。そのときの治療の中心になったものを医師が判断されればいいのです。月によって変わる可能性はありますし,原則は一つですけど,まれには一つでない場合もあるのではないでしょう
か。
ー特定療養費制度の拡大が目につきますが。
矢島:特定療養費制度は患者さんの選択の幅を広げていくものです。薬を例にとると薬事法上承認されても薬価が決まらないと使えない仕組みになっていました。したがって,従来では全額自己負担でした。薬価収載まで通常90日間程度ですが,患者さんの希望があれば使えるようにしてもいいのではないかという議論があり,今回特定療養費制度に組み込まれたということです。
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JCOA ML(H14.7.5)