■手術料の施設基準は減算から加算へ 中医協・基本問題小委
厚生労働省は28日、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)・診療報酬基本問題小委員会に、手術料の施設基準の緩和など医科の診療報酬改定項目案を提示した。医師の経験年数や年間症例数の要件を満たすことができない医療機関の手術料を3割減算する施設基準は、これら要件をクリアする医療機関を加算評価する仕組みに見直す考えを打ち出した。
手術料の施設基準について日本医師会や外科系学会は、年間症例数が多い医療機関ほど手術成績がよいという実証はない、などとして廃止を求めてきた。来年度以降、中医協の下部組織で手術症例数と手術成績の関係についての調査研究が実施されるが、調査結果が出るまでの間は暫定的な見直しで乗り切る方向が固まっている。
厚労省が提案したのは従来の減算方式と加算方式を組み合わせた案。該当する手術の臨床経験が10年以上ある医師が常勤している医療機関で、年間症例数が基準を上回っている場合は手術料に所定の報酬を上乗せできるが、要件を満たす医師がいない医療機関は適切な体制が整っていないとして、手術料が減算される。
改定項目案には、臨床研修病院を対象にした「臨床研修病院入院診療加算(仮称)」の新設も盛り込まれた。医師の卒後臨床研修が4月から義務化されることを受けた対応。▽指導医が研修医にカルテの書き方を指導する体制が整っている▽事務職員を含む全職種が参加する保険診療の講習会を年2回以上行う−などを満たすことが条件で、入院初日に請求する。
2002年度改定で導入された、リハビリテーションと消炎鎮痛処置の逓減制、請求回数制限を、「早期リハビリテーション加算の対象者(急性発症した脳血管疾患患者など)と同様の状態にある患者」に限って緩和する考えも示した。従来の「老人性痴呆疾患治療病棟入院料」よりも作業療法士の配置や、施設要件を緩くした「同入院料2」を新設。老人性痴呆疾患患者の受け皿にする。
日本医師会など医療提供側の中医協委員は、これまで議論してきた診療報酬改定項目案を了承しているが、保険者側は特定機能病院(大学病院)に導入されている入院急性期医療の包括評価(DPC=疾病ごとで決められた定額の入院報酬を支払う仕組み)の民間医療機関への拡大が盛り込まれていないことを理由に態度を保留している。
中医協は今月30日に診療報酬基本問題小委員会と総会を開くことにしており、ここで医療提供側、保険者間の調整がつけば、2月4日が諮問、6日が答申となる見通し。
●医科改定項目案・主なもの(28日の中医協資料より作成)
○手術の施設基準
▽現行の症例数基準や対象手術の範囲に関して、平成16年度において技術集積度と医療結果等について諸外国の状況を含め、調査研究を行う必要がある。このため診療報酬調査専門組織に特別研究グループを設置したらどうか。
▽この間、手術施設基準を以下のように暫定的に見直したらどうか。
- 技術集積を評価し奨励する観点から、減算方式を加算方式に変更したらどうか。
- ただし、上記に変更したとしても、例えば「当該手術の臨床経験が10年以上ある医師が常勤している」など適切に手術が行われる体制がとられている場合以外には、減算方式を残すことにしてはどうか。
- 医療機関における年間手術症例数などの情報について、国民に対する情報提供の内容および範囲、伝達手段等について検討を行うべきではないか。
- 施設基準を満たす医療機関が1つも存在しない都道府県が極端に多い手術について対応を検討すべきではないか。
▽併せて、減算方式と加算方式の基本的原則を明確にする必要があるのではないか。
○療養病棟等入院時の他科受診の評価
▽療養病棟入院基本料、特定入院料等包括評価している入院料をとっている病棟の入院患者が、専門の他科受診をする際は外泊時と同様、入院料の15%を算定することになっているが(入院料が85%減算される)、やむを得ない場合があることから、現在の複雑な要件を簡素化し、明確化する。
具体案:
包括評価を行っている病棟に入院している患者が、他科受診を行 った場合の入院料は当該入院料の○○%を算定する。
○臨床研修機能に伴う医療の質の評価
▽医師臨床研修制度の必修化にあわせて、臨床研修指定病院における研修機能の整備に伴う医療の質の向上の評価を行う。
具体案:
臨床研修病院入院診療加算(仮称)の新設。入院初日に算定する。
要件
- 単独型臨床研修病院、管理型臨床研修病院の指定を受けた病院およびこれに相当すると認められる大学病院のうち、現に研修医が研修を行っている病院が対象。
- 診療録管理体制加算を算定している。
- 研修医の診療録(カルテ)の記載について指導医が指導・確認する体制がとられていること。
- 全職種が参加する保険診療に関する講習を年2回以上実施すること。
- 一定数以上の指導医がいること。
○特定地域への対応
▽特定地域の酸素価格について、従来の離島と同様の評価とするとともに、特段の事情がある場合には、実態に応じた価格で保険償還することとする。
▽離島に存在する病院および有床診療所(ベッド数19以下の医療機関)に入院した場合について、入院基本料の加算を設ける。
具体案:離島加算(仮称) ○○点(1日につき)
○注射薬の無菌製剤加算の適応拡大
▽入院患者の点滴注射における安全確保の観点から、点滴注射薬を無菌室ま たはクリーンベンチ内で無菌的に混合調整を行うことにより、易感染性の入院患者などに対して安全性を十分に確保した注射を行うことを評価。
具体案:
点滴注射における無菌製剤処理加算の対象に「白血病、再生不良性貧血、骨髄異形性症候群、重症複合型免疫不全症等の易感染性の患者」を追加。
○心疾患リハビリテーション料の施設基準見直し
▽心疾患に対する運動療法の一層の推進を図る観点から施設基準を緩和する。
具体案:
(現在)特定集中治療室管理または救命救急入院の届け出を受理されていること。
(改正後)循環器科または心臓血管外科を標榜しており、緊急の事態の発生を回避するための専任の医師がいること。
○早期リハビリテーションの対象疾患の見直し
▽早期からのリハビリテーション実施が有効であるとされる対象疾患の範囲が拡大していることから、対象疾患の見直しについて検討する。
具体案:
脳腫瘍などの開頭手術、急性発症した脳炎、ギランバレーなどの神経筋疾患の患者、四肢の骨折・切断・離断・腱損傷、脊椎および肩甲骨の手術後、四肢の熱傷時、気道熱傷を伴っている時および植皮術後の患者、高次脳機能障害、脊椎・関節手術後、脳性麻痺―を追加。
○リハビリテーション等に関する逓減および算定制限
▽算定回数や逓減制について現在の標準的な実施数を勘案して見直しを行う。
- 早期リハビリテーション加算の対象者と同様の状態にある患者について
- リハビリテーションの個人療法において、11単位目以降の逓減を除外
- リハビリテーションの集団療法の月内算定回数の上限を12単位とする
- 消炎鎮痛等処置の逓減制を5回目以降から7回目以降に変更する
○老人性痴呆疾患患者に対する治療の充実
-
老人性痴呆疾患治療病棟入院料2を新設する。
(要件は、作業療法士は非常勤でも可、患者1人あたりの面積は18平方メ
ートルでよいとするなど、既存の老人性痴呆疾患治療病棟入院料に比べ緩くする)
2004-01-28JPN
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