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●疑問残る院外薬局の請求(h14 5/9 asahi. com)
処方箋添付不要「2万円ルール」のなぞ

 院外薬局は、医療機関の処方箋(せん)をもとに患者に薬剤を処方し、報酬を健康保険組合などに請求します。その明細書(レセプト)に、実は「2万円ルール」と呼ばれる取り決めがあります。月2万円未満の請求なら、処方箋のコピーを添付しなくていいのです。このため、低額とはいえ、薬局が医師の処方通りの金額で調剤したかチェックできません。医療費削減や透明な制度が求められる昨今、「2万円ルール」はなぜなくならないのでしょうか。(永井靖二)

 ○処方箋と明細書の照合は 確認できない健保団体

 「2万円ルールは、続いてますよね」

 医療費の審査に長年かかわる中部地方の医師は昨秋、審査の仕組みを説明する会合の席で、参加した院外薬局の関係者から念を押された。医師は「ごまかしても分かりませんね、とでも言わんばかりだった」という。

 患者が医療機関の診察を受け、院外の薬局で薬を受け取った場合、健康保険組合など保険の運営団体のもとには、医療機関と院外薬局からそれぞれ明細書が送られる。院外薬局は明細書に処方箋のコピーを添付するが、月2万円以上の場合だけだ=図。

 院外薬局が健保などに送る明細書には薬剤名が列記されているが、医療機関が送る明細書には「処方箋料」の項目しかなく、処方箋の具体的内容は記されていない。このため、月2万円未満で処方箋が添付されていないと、保険の運営団体は処方箋通りの請求かどうか確認することはできない。

 健保組合の全国組織、健康保険組合連合会(健保連)が99年6月、加盟組合と支部の計2445団体を対象にアンケートした際、明細書のチェックに関する要望も尋ねた。その結果、「院外薬局からの請求が月2万円未満でも、内容に疑問があれば審査できるようにしてほしい」との意見が計44団体から寄せられ、要望項目の中で3番目に多かった。

 ○撤廃求める声に薬局は 「抵抗ないが作業大変」

 「2万円ルール」の撤廃を求める声を、現場の薬局はどうとらえているのだろうか。 東京都新宿区のある院外薬局は、月1100〜1200枚の明細書を健保などに送っている。2万円を超えるものは、うち150枚程度だ。

 明細書の内容は専用のコンピューター端末に打ち込み、1カ月分をすべて印字する。2万円以上の請求については、患者が持ってきた処方箋の束から該当するものを探し出してコピーし、張り付けなければならない。下端を5センチ切って左上にとじ込み用の穴を開けるなど細かい決まりがあり、明細書を健保などに送る作業にほとんど丸1日が費やされる。経営者は「もし全部にコピーを付けるとすれば何日もかかり、営業に差し障りが出ます」と話す。

 院外薬局が発行する明細書の総数は増え続け、99年度で約2億8500万件に達している。日本薬剤師会は「処方箋の情報が保険の運営団体に開示されることに抵抗はまったくありません。でも、現状のままコピー添付量を増やすと、薬局には過大な作業となり、費用増大や患者サービスの低下につながりかねない」と主張する。

 もともと、2万円ルールはどうして生まれたのか調べてみた。すると、厚生省(当時)が高額明細書のチェックを強化するためとして、88年に2万5000円以上のものに添付を義務づけたのが始まりだった。以前は、処方箋のコピーは一切不要だった。院外薬局から医療機関へのリベートが問題化した96年、額は2万円に引き下げられている。

 厚生労働省医療課は「現在、額をさらに下げてほしいとの要望が医療費を支払う側から出ていることは承知しています。しかし、薬剤師会などと合意できておらず、具体的な課題にはなっていない」という。

 ○オンラインで結ぶ方法は 「将来は電子化の必要」

 保険の運営団体が短時間に、処方箋と明細書の内容をすべて照合する手立てはある。情報を電子化し、オンラインで結ぶ方法だ。

 厚労省は今年度、約3億5000万円の予算で明細書の情報をオンライン化する試験を始める。六つの医療機関と二つの院外薬局、三つの保険の運営団体に協力を求め、データ送信の信頼性や経済効果などを検証する。今年度前半は専門家による検討会でシステムをつくり、年明けにも運用試験に入る。

 しかし、大きな「壁」がある。全国の9割以上の病院に普及している明細書用のコンピューター端末は、処方箋の内容を明細書に取り込む仕様になっていないため、処方箋はオンライン化の対象になりにくいのだ。今回の試験でも、明細書の情報はオンラインで送信されるが、処方箋は従来通りコピーして送ることになるという。

 厚労省保険システム高度化推進室の担当者は「将来的には処方箋の情報も電子化していく必要がありますが、具体的にどうするかはこれからです」と打ち明ける。

 東京医科歯科大学大学院の川渕孝一教授(医療経済学)は「医療費の制度は情報化が遅れている。明細書などのデータは書類にして送ることが前提になっており、非効率さ、不透明さの解消には膨大な作業が必要」としたうえで、「それでも、情報化社会に合う形に改善することが、長期的には医療費の削減につながり、患者にとっても負担が少なくて透明性の高い制度になるはずです」と指摘している。

(asahi.com H14.5.9)


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